あめゆきをとって

仮題と下書き

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

木香茨

赤い文字にふと立ち止まり張り紙を読むと、近日中にこの家が解体されると書いてあった。まさか、木は切らないよね?次に通った時には家も木も、跡形もなかった。木を切るなんて。あんな立派に育ったモッコウバラを、切ってしまうなんて。どんな人が住んでい…

いつかはいなくなる、親のこと

2017/10/21〜2017/11/12 9月の3連休に、岩手に帰省した。 東日本大震災以来、年に一度の帰省を自分に課しているが、私の本心は帰りたくないらしい。去年は帰省の前日に胃けいれんを起こしたし、今年も出発日が近づくにつれて身体のあちこちが痛み出した。 父…

2018帰省日記

2018/09/11〜2018/10/24 2日目①〜復興の町、老いゆく親 これまでに何度も感じた事のある、昨日と今日ではまるで違う世界に来てしまったような感覚。 例えば3.11、あるいは9.11の時のように。 東日本大震災をきっかけに、遠ざかっていた故郷に帰省するように…

アヒル

2017/01 弟が生まれた当時の事を、鮮明に覚えている。 男子の誕生とはこれ程までに大人を喜ばすのかと驚く程、弟は周囲からの祝福を受けていた。父はたいそう上機嫌で、母も満面の笑顔を見せていた。 5歳の私と2つ上の姉は、弟が出来た事はもちろん嬉しいの…

犬がしんだ。ただ、それだけのこと

2016/01/25〜2016/02/01 犬が死んだ。 犬がいなくなればいいと言っていた私に、罰を与えるかのように 本当に、犬が死んだ。 犬が死んだらどうしようといつも考えていた。 考えておかないとそうなった時どうしていいか解らないだろうから。 そして、いつも考…

映画「あん」を観て来た母と私の物語

2015/09/28〜2015/10/03 「Sさんの息子さんが書いた本コ、おめさん読まねーすか?」 と、田舎の母が電話をかけてきた。 Sさんというのは母の古くからの友人で、関西地方に住んでいる。 Sさんは、ものを書く人でもあった。Sさんの短編集を、昔読んだ事がある…

信仰

信仰がない私は、何に祈ればいいのだろうか。 どんな神様だって、私など助けてくれないと思う。 信仰があれば 信じる神がいれば きっと、今ほど苦しくはなかっただろう。 幼い頃、姉とふたりで初詣に行った。 私達は押し黙って足元を見ながら歩いた。慣れな…

犬と虫のこと

玄関に留まりし虫も亡き犬の 輪廻と思う飼い主悲し この歌を詠んだのは昨年の7月。はてな題詠「短歌の目」7月のお題「虫」の時でした。 昨年初夏に知人のYさんが飼い犬を亡くした、その直後のエピソードから詠んだものでした。 Yさんとはドッグスポーツを介…

あの日

2011年3月10日。 その日パートが休みだった私は同僚と銀座で韓国映画を観た。その後アンジェリーナのモンブランを食べ紅茶を飲みながら、夕方までお喋りをした。 翌日の3月11日 金曜日。 私は職場である某ショッピングモールに出勤した。同僚達と楽しかった…

礼子先生のこと

中1の時、私は華道部に入っていた。 でも、部員不足のために華道部は一年で廃部になってしまった。 どうしようかと思っていると、華道部の顧問だったレイコ先生が 「私は今度、書道部の顧問をやるから、タンポポちゃんも書道部に入りなさい」 と半ば強制的…

どうしてあんなに泣いたのだろう

どうしてあんなに 泣いたのだろう 高校を卒業し、ほとんどの同級生達は社会人になった。 3年間ぼんやりと高校生活を送っていた私も、就職するより仕方なく 張り出されている求人票の中で一番給料が良い、という理由だけで 東京の洋品店に就職を決めた。 旅…

拾って捨てたネコのこと

その猫は草むらの中にいて、最初、姿が見えなかった。 そのまま通り過ぎてしまえば良かったのだ。 私の家は、私が小学校を卒業する少し前に引っ越しをした。 それまでの家は中学校の前にあり、新しい家は中学校から離れてしまった。 30分かけて通った小学校…

表彰式のこと

特定非営利活動法人いわてアートサポートセンターのエッセイ公募に入賞し、賞状と記念日とエッセイ集「いわて震災エッセイ2019」をいただいた。 2月に開催された朗読会では、私の作品『七年目のレストハウスへ』も披露された。 私は諸事情で欠席し、姉と姉の…

ポプラの木の下で

駅前にある蛇の目寿司は、私が子供の頃から地元では有名な高級店であった。 今では地元だけでなく、県外からの観光客も訪れる人気店となった。 帰省して、その店に出かけた。 私が弟に「ご馳走してよ」とねだったら、思いがけず実現したのだった。 母と私と…

何者にもなれなかったのは、なろうとしなかったから

なりたかったものに、なぜなれなかったのか考えた事は何度もある。 その度に私は、自分以外のせいにしたと思う。親のせい、田舎のせい、貧乏のせい、運がない? なりたいものになんか、殆どの人がなれないものさ。そんな風にうそぶいてみたりもした。 私はず…

二通目の手紙

お義母さん。 あなたへの手紙は、これが二通目ですね。 最初の手紙を書いたのは、もう三十年以上も前の事です。 元号が「平成」に変わって間もない、あの雪の日に あなたは突然倒れ、帰らぬ人となりました。 通夜の晩、涙を拭いながら書いた手紙を、棺にそっ…

エッセイ・それからのこと

『私にとって父は、疎ましい存在であった』 昨年の冬に応募したエッセイは、この一文から始まった。 実際は『疎ましい』どころではなかったが、導入部なので過激な表現を避けた。そして、この後に 『父と遊んだとか、甘えた記憶がほとんどない。 父は仕事も…

七年目のレストハウスへ

疎遠にしていた故郷に帰省するようになったのは、東日本大震災がきっかけだった。 故郷の惨状に言葉を失った私は、年に一度の帰省を自らに課した。この震災を決して忘れないように。復興の軌跡を確かめるために。 そして、ある人との再会を果たしたかった。…

里芋が美味しかったから

毎日歌壇に、私の歌が掲載された。 初七日の法要の膳の里芋が美味しくて泣く お婆やんごめん 初句の初七日は、私の母方の祖母が亡くなった時の、もう30年以上も前の事である。 母の実家は手広く商売をしていて、祖母は地元では有名なお婆さんだった。祖母に…

ユッコ姫のアイス

五十年も昔の事。生まれ育った小さな港町には、胸ときめくものが何もなかった。家庭が不和で、学校でも苛められる惨めな私。 祖母は隣の町に住んでいた。一人でとぼとぼ歩いていたら、ばったり祖母と出会った。祖母は何かを察したように「ユッコやん、お婆…

もうひとつのエピソード

昨年の9月、海の見える高台にあるホテルに母と一泊した。 その帰りに浄土ヶ浜レストハウスに立ち寄ったのは、復興イベントでお会いした人を訪ねるためだった。人見知りな私がその勇気を出すまで、七年もかかってしまった。 しかしその人は勤務先が変わってし…

カラオケに行った

2019/12/06 九月に帰省した時、姉と弟と私の三人でカラオケをした。 それは私達にとって、早く忘れ去りたい黒歴史であり、ずっとしまっておきたい宝石のような一夜でもある。とにかく最高にエモーショナルな出来事であったから、忘れないうちに書いておく。 …

わたしの城下町

住む場所を自由に選べる。それが実現するならば、私はどこに住むだろう。 高校を卒業し、東北の港町から上京した私はこれまでに、東京都内を8回引っ越した。 いつもお金がないから高い賃貸物件には住めなかった。安さにはそれぞれ訳があって、住まいに満足し…

斜陽館に行った

2019年9月6日の斜陽館。 義兄、姉と私の3人で行きました。盛岡駅から車で2時間半程でした。 今年の猛暑は青森の五所川原も例外ではありません。 ものすごく暑かったけれど、時おり爽やかな初秋の風が吹きました。そして、青い空がとても綺麗でした。 明治40…