あめゆきをとって

仮題と下書き

2019-12-14から1日間の記事一覧

拾って捨てたネコのこと

その猫は草むらの中にいて、最初、姿が見えなかった。 そのまま通り過ぎてしまえば良かったのだ。 私の家は、私が小学校を卒業する少し前に引っ越しをした。 それまでの家は中学校の前にあり、新しい家は中学校から離れてしまった。 30分かけて通った小学校…

表彰式のこと

特定非営利活動法人いわてアートサポートセンターのエッセイ公募に入賞し、賞状と記念日とエッセイ集「いわて震災エッセイ2019」をいただいた。 2月に開催された朗読会では、私の作品『七年目のレストハウスへ』も披露された。 私は諸事情で欠席し、姉と姉の…

ポプラの木の下で

駅前にある蛇の目寿司は、私が子供の頃から地元では有名な高級店であった。 今では地元だけでなく、県外からの観光客も訪れる人気店となった。 帰省して、その店に出かけた。 私が弟に「ご馳走してよ」とねだったら、思いがけず実現したのだった。 母と私と…

何者にもなれなかったのは、なろうとしなかったから

なりたかったものに、なぜなれなかったのか考えた事は何度もある。 その度に私は、自分以外のせいにしたと思う。親のせい、田舎のせい、貧乏のせい、運がない? なりたいものになんか、殆どの人がなれないものさ。そんな風にうそぶいてみたりもした。 私はず…

二通目の手紙

お義母さん。 あなたへの手紙は、これが二通目ですね。 最初の手紙を書いたのは、もう三十年以上も前の事です。 元号が「平成」に変わって間もない、あの雪の日に あなたは突然倒れ、帰らぬ人となりました。 通夜の晩、涙を拭いながら書いた手紙を、棺にそっ…

エッセイ・それからのこと

『私にとって父は、疎ましい存在であった』 昨年の冬に応募したエッセイは、この一文から始まった。 実際は『疎ましい』どころではなかったが、導入部なので過激な表現を避けた。そして、この後に 『父と遊んだとか、甘えた記憶がほとんどない。 父は仕事も…

七年目のレストハウスへ

疎遠にしていた故郷に帰省するようになったのは、東日本大震災がきっかけだった。 故郷の惨状に言葉を失った私は、年に一度の帰省を自らに課した。この震災を決して忘れないように。復興の軌跡を確かめるために。 そして、ある人との再会を果たしたかった。…

里芋が美味しかったから

毎日歌壇に、私の歌が掲載された。 初七日の法要の膳の里芋が美味しくて泣く お婆やんごめん 初句の初七日は、私の母方の祖母が亡くなった時の、もう30年以上も前の事である。 母の実家は手広く商売をしていて、祖母は地元では有名なお婆さんだった。祖母に…

ユッコ姫のアイス

五十年も昔の事。生まれ育った小さな港町には、胸ときめくものが何もなかった。家庭が不和で、学校でも苛められる惨めな私。 祖母は隣の町に住んでいた。一人でとぼとぼ歩いていたら、ばったり祖母と出会った。祖母は何かを察したように「ユッコやん、お婆…