あめゆきをとって

仮題と下書き

かりんとうコンペイトーにハッカ糖

おやつの時間に憧れていた。

アニメの主人公は皆、毎日午後3時になると家で出されるおやつを食べる。

ママ手作りのホットケーキ。ふっくらほかほかはちみつの甘い匂い。

ママの焼いたクッキー、ママの揚げたドーナッツ‥

3時にうちの母は働いていたから、そんなおやつは望むべくもない。私は10円玉を握りしめ、駄菓子屋に走った。そしてクッピーラムネや串カステラを買って、外でひとりで食べた。

 

母は、早朝から夕方まで市場で働いた。

朝は市場の食堂の朝定食、お昼は市場かどこかでいつも中華そばを食べていた。

私は学校が終わると真っ直ぐ家に帰らず、市場に寄り道をした。

家と市場は逆方向だから、先生に見つかれば叱られる。でも一度も見つかった事がなく、母にも咎められなかった。

母と会話が出来るのは、店が空く3時頃だけだ。4時から閉店までは客が増えて忙しくなる。

家に帰ると大急ぎで夕飯の支度をして、食事と風呂が終わると母は、すぐに寝てしまうのだった。

花林糖、金平糖に薄荷糖。

それは、母が好きだったお菓子で、うたの日のお題がかりんとうだったので詠んでみた。

私はこれらのお菓子があまり好きではなかったが、お腹が空いたと甘えて、母の割烹着のポケットを探ると、飴玉や食べかけの菓子袋が入っていた。

「これは、おれの、こびり」

"こびり"というのは方言だが、何と訳せばいいのだろう?母に聞いておけばよかった。

そして母は、いつ"こびり"を食べていたのか?母の日常には、ゆっくり座ってお茶を一服するような時間はなかった。

 

都会に出た私は、田舎にないお菓子を見つけては母に送った。

母は珍しいと言って喜んだ(フリをした)けれど、気に入って次も欲しがったものは、何もなかったような気がする。

そういえば、母はお酒も好きで、亡くなる前の年だっただろうか、昔ながらのウイスキーボンボンが食べたいけれど、宮古には売っていないから東京で探して欲しいと頼まれた。

私はデパ地下を探し歩いたが、なるほど母の言う通り、母の求めているボンボンは見つからなかった。洋酒入りのチョコレートをいくつか送ってはみたものの、これでないのは解っていた。私の記憶も曖昧だけれど、口にいれてかじると薄い砂糖がすぐに砕けて、口の中いっぱいに広がるリキュール。これは酔っぱらうからダメと、母はひとつしかくれなかったけれど、とても甘くて美味しかった。

あのボンボンは、どこにあるのだろう。

もっとよく探してあげればよかった。

先日、娘にホテルスイーツをご馳走になり、美味しかったので売店でパンとクッキーも買ってもらって、それなのに私ときたら、私は母に何かしてあげたっけ?と、思うと酷く悲しくなった。

 

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三月は母の誕生月で、私は誕生日と母の日には何を送ろうか毎年頭を悩ませていたけれど、それでも母が望んだ事は、何もしてあげなかったのではないかと今頃になって思う。

 

私もかりんとうを食べるようになった。

ひとりでこっそりと、口さみしい時に少しだけ、母との日々を偲びながら。

母にも、食べさせたかったな、ほろりと柔らかな黒糖の、甘い甘い、花林糖。

 

かりんとうコンペイトーにハッカ糖母さんのポッケを探るとあった(うたの日/カリメロ