あめゆきをとって

仮題と下書き

クリスマスが来るたび思い出す、あの日のこと

娘が小学1年の時だろうか。2年生か、とにかく7歳頃であった。

娘が学校から大泣きして帰って来た。そして、酷く怒っていた。

「ママのバカ!ママの嘘つき!ママなんか大嫌い!」

ほう、ママが大嫌いとは上等じゃないか。

しかし、この日の娘の怒りは尋常ではなかった。

それでも私には、こうなる予測がついていた。学校で何が起こったのか、ママ友ネットワークにより既に耳に入っていたからだ。

「サンタクロースなんて、本当はいないんでしょう?

サンタクロースは作り話だって。クリスマスプレゼントは親がお店で買って来るんだって。

幼稚園児ならともかく、小学生にもなってサンタクロースを信じているなんて、バカみたいだって・・・Aちゃんが・・・Aちゃんが・・・」

娘はわんわん泣きながら、このような訴えをした。

「サンタクロースはいるよ、本当だよ」

「嘘つき!ママは嘘つきだ!うえーん!うえーん!」

「サンタクロースはね、サンタクロースを信じている子供の所だけに来るの。

Aちゃんはサンタクロースを信じていないのでしょう?だから、Aちゃんの所にはサンタさん、来た事がないんだねえ」

娘は泣き止んで、黙って私の話を聞いていた。けれども、次の言葉を聞いて再び火がついたように泣き出した。

「あなたはAちゃんの言葉を信じて、サンタクロースの存在を信じなくなったよね。だから、これからはもう、サンタクロースはあなたの所に来ません」

 

娘はひきつけを起こすのではと思う程泣いて泣いて、泣き疲れて眠ってしまった。

それからママ友達は激怒して、サンタクロースの正体を暴露したAちゃんの親に苦情を言った。

「バカじゃないの?サンタクロースなんかいるわけないのに、子供に嘘を教える方がよっぽど悪い」

Aちゃんの親は開き直り、私達にこう言い放った。

対して、親達の反応は様々だった。

「うちの子も本当はサンタが親だと、もう気付いているけれどね。幼いきょうだいの為に黙っているの。だから、サンタはいないと声高に言わないで欲しい」

というものから

「うちの子達には、まだあと数年はサンタクロースを信じる子供でいて欲しい。これは、親のエゴ」

と言う親もいた。

けれどもAちゃんの母親は、これらの声を一蹴した。

Aちゃんの母親は、とある新興宗教の熱心な信者なのだった。だから、Aちゃんにはサンタクロースの存在を否定して育てた。地元のお祭りにも参加させない。近くの神社に初詣することもない。

当時住んでいた地域には、何故かこの宗教の信者が多く住んでいた。

この、私達のママ友グループの諍いは、信者界隈でも問題になったらしい。

そして、界隈での話し合いの結果、子供が小学生のうちは子供のコミュニティも大事という結論になり、地元のお祭りとクリスマス会の参加がOKになった。

無宗教の私には、なんだそりゃ…としか言いようがない結末だった。

 

 

やっと目を覚ました娘におやつを食べさせながら、私は娘に言った。

「サンタクロースは本当にいるんだよ。サンタを信じる小さな子供に、プレゼントを持って来るの。でもね、サンタクロースはひとりじゃない。だって、世界中の子供達にたったひとりで配るのは大変でしょう?」

「うん」

「サンタの代わりにママがプレゼントを買ってあげる。サンタクロースは何をくれるか解らなかったけど、これからはデパートであなたが欲しいものを買おうね」

 

 

 

そう、サンタクロースは本当にいるのです。

サンタクロースを信じる全ての人々の、心の中に。